相転移とクリティカル現象
イジング模型の醍醐味は、単純なルールから相転移 (Phase Transition) という劇的な現象が現れることです。
強磁性相転移
温度を高温から下げていくと、ある臨界温度 を境に、それまでバラバラだったスピンの向きが揃い始め、巨視的な磁化(自発磁化)が発生します。
- 高温相 ( ): 常磁性相。熱ゆらぎが支配的で、スピンはランダム。総磁化は平均してゼロ。
- 低温相 ( ): 強磁性相。相互作用が支配的で、スピンが全体として揃う。総磁化は非ゼロ。
オンサーガーの厳密解により、2次元正方格子イジング模型の臨界温度(解析解)は以下のように知られています。
シミュレーションを行うと、この温度付近で様々な物理量が特異な振る舞いを示します。
物理量の測定
シミュレーションで測定すべき主な量は以下の通りです( は総スピン数)。
- 単位スピンあたりの平均磁化 :
- 単位スピンあたりの比熱 : エネルギーの揺らぎから計算できます(揺動散逸定理)。
- 帯磁率 : 磁化の揺らぎから計算できます。
シミュレーション結果の解釈
Rustプログラムで温度を変えながらこれらの量を測定すると、以下の結果が得られます。
- 磁化 : 低温では1に近く、温度上昇とともに減少し、 付近で急激にゼロに落ちます。
- 比熱 : 付近で鋭いピーク(発散)を持ちます。これは相転移に伴うエントロピーの急激な変化を表しています。
有限サイズ効果
厳密な相転移(特異点)は、無限大の系 ( ) でのみ起こります。 シミュレーションで扱う有限の系では、相転移は「なめらか」になり、比熱のピークも丸まって、ピーク位置も厳密な から少しずれます。 これを有限サイズ効果と呼びます。
より精密な解析を行うには、システムサイズ を変えながら測定を行い、 への外挿を行う有限サイズスケーリング (Finite Size Scaling) という手法が用いられます。
総合演習への接続
2D Ising実践演習では、Binder parameter
を使って有限サイズスケーリングを調べます。 異なる格子サイズの が交差する温度を、オンサーガーの厳密解
と比較します。 また、低温の有限時間シミュレーションでなぜ がゼロに見えないことがあるのかを、対称性とエルゴード性の観点から考えます。